台湾の有機農業体験を通じて生き方を学ぶ-vol.1

インタビュー

哈囉!台湾遊学中の風林です。台湾人が心待ちにしている連休の1つ、中秋節を前に、衝動的に台北のとある有機農家さんの元でお手伝いをさせてもらうことになりました。

料理が好きなこともあって、前々から農業に関心があったのですが、日本で働いている時は実際に農業に触れてみるきっかけはありませんでした。今回、留学生という身分と、あり余る時間を活かして、実際に体験してみようという次第です。

杜(du)さんとの出会いの初日から、本当にたくさんの学びがありました。

杜さんとの出会い-どうやって農家にコンタクトを取る?

はて、農業を体験するといっても、私が住んでいるのは大都会台北、農地など作る隙間はこれっぽっちもないコンクリートジャングル。確かに台北から少し離れた場所だとポツポツと農家はあるけど、長期的に農業体験をするとなると、学校生活との両立が難しい。

ひとまず「台北 農家」などと検索してみると、ポツポツと候補があった。が、山の上にあるのが大半で、運転免許を持たない私が辿り着くのは至難の技。なんとか公共交通機関でたどり着ける農場がないか、せっせと検索。

そんなこんなで、なんとか見つかったのが台北の北部に聳える陽明山の麓にある、杜(du)さんが経営している有機農場。ここだと、住んでいるとこからバスで1時間ほどで着く。

フェイスブックページがあったので、早速メッセージを送ってみる。

「急にすいません。私は台湾に留学している日本人です。農業に興味があるのですが、授業外の時間でお手伝いさせてもらえませんか?」

農業経験もない外国人が急に手伝わせてくれといっても、足手まといだろう。きっと断られるかな〜。なんて考えながら、翌日の返事にはこうあった。

「今週末新しい野菜植えるので、とりあえず来てみてください。」

よっしゃ!
台北有機農業体験の始まりです。

杜さんにインタビュー-サラリーマンから転業!どうして農家になったのか?

第一目、約束の時間に農場の最寄り駅につく。おんなじ台北でも、ちょっと小高い場所にあるためか、すこし涼しい。おまけに空気も澄んでいるような気がする。なんだか素敵なとこに来たなぁ、なんて思っていると、向こうのほうから「哈囉(ハロー)!」と言いながら向かってくる人がいる。杜さんに違いない。

年齢は自分の父より少し若いくらいで、とっても気さくな人だった。農場までの道すがら、早速いろんな話をしてくれた。自分の人生にとって、あるいは農業を始めてみようとしている人にもきっと大切な話をしてくれたので、以下インタビュー形式で紹介してみよう。


金針花(忘れ草)-花弁は乾物にし、台湾ではスープの具になる
金針花(忘れ草)-花弁は乾物にし、台湾ではスープの具になる

-杜さんはいつから農業を始めた?
杜:経歴経験ゼロから有機農業を初めて、今年で12年になるかな。それまでは全然農業と関係ない仕事をしてたんですよ。会社員をした後は、友人と共同出資して会社を創設したり。でも、事情により仕事を辞めたんですね。

-サラリーマンからの農業ですか!随分大変な決断だったのでは?
杜:そうだね(笑) 仕事を辞めてからは、しばらく子育てに専念しようとしてました。それまでずっと妻に任せっきりだったので。でも、ずっと家にいるのもなんだか嫌だったので、奥さんの誘いで夜間学校で学び始めことにしたんです。

-夜間学校では何を勉強しましたか?
杜:初めにとったクラスは「起業の方法」だね。でも、3日目に講師から怒られました。「自分で起業したことがあるのに、何を学ぶ必要がある?」と(笑)
まぁ、その通りだよね。でもその時他になんてすることなかったので、継続して受講しました。

-なるほど。でもここまで、まだ農業するきっかけ全然出てきてませんよね?
杜:その起業クラスで、会社を創設するとして、どんあアイデアがあるかを宿題で書かされたんだけど、それで有機野菜を売る店を書いたんだよ。有機野菜を農家から直接買い付けて販売し、また自分でも少し育て売るというもの。

でも、当時は台湾では有機野菜は殆ど出回ってなく、価格もかなり高いものであったので、先生からは可能性が低いと言われたね。だいたい、そもそも書けと言われたから書いただけで、実際に実現する気もなかったんだけどね(笑)

全ては実家の家庭菜園から始まった

-売る側から作る側へ、その視点変換のきっかけは?
杜:当時両親が庭で家庭菜園をしてたんですね。で、たまたま通っていた夜間学校に農業のクラスがあるのを見つけて、両親の手助けにもになるかと参加したのが始まりでしたね。

それが思いの外面白くてね。庭でも早速習ったことを実践して、分からないことや問題が発生した時はすぐに講師に連絡したりして、かなり真面目に取り組んだね。学生の頃よりはるかに勉強したかな(笑) なんだかんだで一年、二年とそのクラスに参加し続け、気づいた頃には講師とは師弟関係になったね。そして、たまたま陽明山にこの土地を見つけ、自ら新たに農業を始めました。

-12年間も農業に従事されて、面白みってどんなところにあると感じますか?
杜:最近は農家体験などのイベントを通じて、大都市で育った子供たちなどに、どういう風に野菜が実って、どういう風に手入れをしてということを知ってもらうことに意義を見出していますね。

いっぱい野菜を作って金を稼ぐより、自分が作れる分だけ作って売る。だからレストランとも契約しないし。とにかく、自分でやれることだけをやるってことがいいと感じています。もちろん農作業はしんどいんだけど、その分誰からも管理されないし、文句を言われない。自分ができる限りの範囲で頑張って、その分でお金になればいいと思っています。

-有機農業ならではの苦労ってどんなところにありますか?
杜:台湾で有機農家の認定を受けることは結構ハードルが高いんですよ。自分の農園で農薬を使っていなくとも、例えば隣の農家が農薬を使用していたりすると、当然風に乗って自分の農園まで農薬が届きますよね。そうなると自分も認定を受けられなくなるんです。だから、周囲の環境にはとても気を使いますよ。

1度認定を受けると、あとはこっそり農薬を使用してたりしても誰もわからないし、実際そういう農家も多いけど、自分は自分に正直でありたいので絶対にやらないです。

有機農業で作った野菜、どういうイメージがありますかね?結局判断するのは消費者の味蕾であって、絶対的にどうかとは言えないですが、農場で摘みたて野菜を食べた人たちの反応は概ね、市場やスーパーで買っている野菜と全く違うというものですね。これは単に有機農業だから美味しいというのではなく、野菜本来の味や甘みをしっかり引き出すために、肥料の選定や土の手入れ、全てのプロセスを科学的に設計しているんですよ。

有機栽培=自然農法ではない!? ただ放置するのではなく、科学的に栽培すべし

-科学的?有機農業というと自然のままの姿で育て、極力手を入れないイメージがありますが…
杜:違う違う!(笑)有機栽培=自然農法みたいなイメージがあるけど、そうではない。全てはしっかりとした科学的手法に基づいてるんだよ。例えば、ネギの周りの雑草、どうしてこんな茫々なのか?

それは雑草の根が土を柔らかく保つということと、雑草があることで直射が遮られ、土が乾きにくくなるということがあるんだ。みんなは作物の上の部分しか見ないが、より重要なのは土壌の状態だ。養分がありすぎてもダメだし、なさすぎてもダメ。

-考えてみれば、確かにものすごくロジカルですね…
杜:ちゃんと科学的に設計してやるのが有機栽培。なんでも昔や自然的な方法がいいとは限らないんです。例えば肥料にしても、「牛の糞」と「おから」、どっちが野菜を美味しく育てられると思う?

-糞…ですかね? 栄養たっぷりそうだし。。。
杜:はずれ!確かに糞は栄養がたっぷりだけども、栄養が豊富すぎて、その養分だけで野菜が育ってしまうんです。要は、植物が頑張らない。対しておからはそんなに栄養が多くないから、植物はがんばって根を伸ばして土の中からも養分をしっかり吸収しようとする。

その分成長は遅くなるけど、たくましく、栄養をしっかり取り入れて成長するんですよ。


ニラの花

農業は世界共通言語?台湾を飛び出して日本やドイツの農家との交流を通じて得たものとは

-なるほど。なんかものすごく納得しました。(笑)
杜:でもやっぱり農業に関しては、日本の方が蓄積された技術は多いと思いますね。私も含め、台湾の農業は日本を参考にしているところが少なくありません。この前の冬は岩手に行き、農協や直売所を見て回りました。農業の方法だけでなく、農作物のマーケティングについてもかなり参考になります。

道の駅や直売所というアイデアは台湾にないもので、各農家が農作業やそれらの加工品を販売しているのを見て、ぜひ輸入したいコンセプトだと思いました。

それだけでなく、東京など大都市のど真ん中でやっているファーマーズマーケットなどというのも台湾にはなかなかない取り組みですね。日本はパッケージングや売り出し方についても、台湾ではみられないような細かい気遣いがあって新鮮です。その背後にはきっと、盆栽や生花、あるいは食事の盛り付けなどに見られる日本独特の「美感」があるんでしょうね。

-言葉が通じなくとも、農業従事者同士で共有できることもさまざまにあるのでしょうね。
杜:実は娘がドイツ留学していたこともあって、ドイツにも有機農業の視察に行ったんです。街中で開かれているマルシェや、「Bio食材」のブームなど、農業の新たな可能性を感じたとともに、農業が人々の生活により根付いているような印象を受けました。

-確かに、ドイツをはじめヨーロッパは食品安全や有機栽培など、食と健康、自然にまつわるブームの先駆者であるというイメージがありますね。
杜:そうそう。もっとも印象的だったのは、あるマルシェに行った時にね、苗が野菜より高く売られてたんです。これには大変驚きましたね。なんでわざわざ手をかけて育てないといけない苗に、人々がより多くのお金を払うのか!これを見た時には、なんとも言えない感動がありましたね。

他にも、毎日いろんな人が花を買っていることにも驚きました。台湾だと、お祝い事とか、誰かがなくなった時とかにしか花なんて買いませんよ。花や植物と人間との関係の仕方が、やはり異なるんですね。

-実際に有機農家にも会われてみて、いかがでしたか?
杜:とってもいい出会いでした。言葉が異なっても、例えばネギの周りに雑草が残っていることとか、玉ねぎを密に植えて大きくなり育ちすぎないようにしている点などの共通点を見つけて、「あ〜!これするといいよね!オマエもわかってるね〜!」と、コツや苦労を共有できた時には感動ましたね。

農業の第一ステップは市場分析からスタートする!

-それはきっと「プロ」同士であるからこその共感と感動だったんでしょうね
杜:そうだね。で、そうやって色々と学んできたんだけど、台湾がダメだとかドイツがいいだとかいうような単純な考えには絶対に反対している。それぞれ良いところと悪いところの両方あるわけだからね。

重要なのは、その場所の人々が何を欲しているのかを考えること。だから、農業というのも、まずはスーパに行って、市場観察から始めなければいけない。これは、大学などの講演に呼ばれた時、1番強調しているところなんです。どんな野菜がどんな値段で売られているのか、誰が買っているのかを知ることからはじめて、農業が”今”の社会においてどんなポジショニングであるのか、規模や方法を含め、どんな農業形態が存在しているのかを理解しないといけない。

作る野菜1つについても、大きければよし、多ければよしというのは昔の時代の考え方。今の時代はどんな人が野菜を買うと思う?ちょっと考えてみればわかる。今の家庭は1人暮らしも多いし、多くても3人暮らしの核家族が主流な上、夫婦共働きだと週末だけ料理するという人が多い。

そんな人たちが、kg単位売りや、大きく育った野菜を必要としているだろうか?きっとサイズも小さく、小ロットの方が使いやすいし、無駄にならない。あるいはちょっと珍しいような野菜が、SNS文化の助長もあって、若い人達の目を惹き売れるんですよ。

-なるほど。単に農業という生活様式で捉えるのではなく、あくまで産業として捉えよ、ということですね。
杜:そうだね。お金目的ではなく、休日農家や趣味でやるなら別だけど、お金を稼ごうというのなら、そういう視点がないと淘汰されてしまうよ。

安易に農業の道に進むのは絶対反対。けれども、農業体験を通じて学べることは学び取って欲しい。

-ちなみに農業体験等もされているそうですが、農業を通じてどういうメッセージを伝えたいですか?
杜:前提として、農家になることは安易に勧めません。体力的にも辛いし、お金も稼げない。だけど、農作業を通じて学べることがたくさんあるんです。1つは、自分の力でコントロールしきれない問題に向き合う力。農業は毎日がトラブルの連続ですよ。しかも気温、天気、虫や土壌の問題などは、人間が100%コントロールできるものではありません。そんな問題に向き合いながら、どうやって解決するのか。

あるいは、農業はまとまった期間、同じような作業を繰り返すことも多いです。そんな作業をこなす中で、どうやれば効率を上げることができるか、など、自分の脳みそを使って解決しなければいけない問題がたくさんあります。

バイトや会社だと、問題は人に頼み込んだり、謝ったりして解決することもありますが、農業では結果は全て自分のハンドリング次第。そういった部分を学んで欲しいですね。

杜さんの元には、いまでも農業体験で受け入れた当時の留学生が、台湾旅行のたびに訪れてくるのだそうです。

喜樂屋有機農場
前置作業~

咀嚼してみる

さて、私はここにきた理由はなんだったでしょうか。農業に対する漠然とした興味はどこからきたものでしょうか?ちょっと自分が考えていることも書いておこうと思います。

大学を出て、就職する以外にお金を稼ぐ手段を知らない私は、日本で2年半働きました。それから、なんだか嫌になって台湾に留学に来ました。そしてまた今の私は、台湾で合法的に暮らし続けるために、就職という選択をしようとしています。いや、もしかすると逆なのかもしれない。つまり、会社員をするということを正当化するために、海外で生活をするということを選択しているのかもしれません。

私は、農業という全く私の知らない世界に生きる杜さんの言葉はとても新鮮で、面白かった。でも、杜さんは1つ、とっても大事なことを教えてくれました。

それはつまり、農業も会社員も、鯔のつまりやっていることはそれほど変わらないということです。

なぜ杜さんが、私が、会社員でいることに嫌気がさしたのか。その原因の1つに、代わり映えのしない日々への面白くなさがあると思います。毎日会社に行って、自分のこなす業務の要領も掴んで、1、2年もそんな様子が続くと、なんだかおんなじことの繰り返しで、誰だって飽きてしまう。

農業もそれと同じで、一年のスケジュールは種まき、剪定、収穫、除草、耕運の繰り返しなんですね。

ではどうして杜さんは農業を続けることができたのか?それは、

・農場で発生するあらゆる問題解決にあたる過程で、先例や他者の実践、研究蓄積等を元に自ら問題を分析し、問題解決のための仮説構築とその結果検証を日々行うことで、知的刺激を得るとともに、達成感(成就感)を得ているから

・自分が可能な限りで農業を行うことによって、人から急かされたり、ストレスを与えられることがないし、時間=賃金労働制(サラリーマン)からの解放によって、自分が真の意味で自分のボスになっているから

・農業を通じて、人間が生活するための技術を習得し、研磨し、自らの手で作ったものを消費して生活をするという最上の贅沢と娯楽を得ているから

この3点なんじゃないかと思いました。

どうでしょうか。先の2点については、働くということへの付き合い方です。抽象的な言い方になりますが、「主体的」に関わってゆくことと、時間管理を「されない」こと。私は、農業そのものに惹かれている、ということも確かながら、それ以上に、時間=賃金労働制に対する違和感が大きいんですね。

そうしたシステムからどう逃れていくのか、というのは様々な選択肢があると思うし、今の社会の流れの中にもそういった支流は間違いなくあると思います。Youtuberもしかり、起業もしかり、フリーランスもそうですが、「サラリーマン」からの脱却は、必ずしも起業という道に行き着くわけでもないはずです。

そして、最後の1点については、これは生きることそのものに関わることですね。これについては、このお二人に学ばさせていただいてます。

さて、ここまで読んでいただきありがとうございました。次回は有機農業実践編をお届けしますかね。コメントやSNSでシェアいただけるとありがたいです。

では。再會

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コメント

  1. Eric より:

    いい経験でしたね!台湾の生活になかなか良くなりそうですねー!

  2. […] 第1回はこちら⇨台湾の有機農業体験を通じて生き方を学ぶ-vol.1 […]

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